小児歯科学雑誌
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臨床
幼児期に多数歯齲蝕を有した患児に対し包括的な長期管理を行った1例
稲田 絵美齊藤 一誠村上 大輔武元 嘉彦森園 健岩崎 智憲早崎 治明山﨑 要一
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2013 年 51 巻 4 号 p. 447-455

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抄録
近年,小児の齲蝕は減少傾向にあるものの,一方で多数歯齲蝕により口腔崩壊している子どもが少なからず存在し,ほとんど齲蝕のない子どもとの二極化が問題となっている。その背景として,子どもを取り巻く環境が複雑化し,周囲の大人の「子どもの口の生活習慣にまで手が回らない生活状況」という,社会的決定要因が一因となっている。今回我々は,社会的決定要因の影響により,口腔衛生状態の不良や,その原因となる食習慣といった生物医学的要因が悪化し,小児期に多数歯重症齲蝕が発症した患児の長期口腔管理を行った。齲蝕治療の結果,窩洞に食渣やプラークが蓄積しやすいという状態は消失したものの,齲蝕リスクは非常に高い状態が続いていた。我々は,患児の生活習慣を考慮した口腔衛生管理と,可撤式保隙装置を用いて歯列の適切な空隙管理を行うことで,齲蝕治療後から永久歯列が完成するまでの齲蝕や歯列不正の問題を未然に防ぎ,健全な歯列咬合へと導くことができた。すなわち8 年にわたる小児期の包括的な長期管理が功を奏した症例であると言える。子どもの社会的決定要因と生物医学的要因を把握し,それぞれに対する健康な口腔の育成を,中・長期的な視野で考慮することが小児歯科医療において重要であると考えられた。
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© 2013 日本小児歯科学会
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