2014 年 52 巻 1 号 p. 90-96
自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder 以下ASD)の小児には,知的障害の有無に関わらず整理統合が困難で視覚優位である者が多い。また,ASD 児の能力には個人差があるため,支援者は障害特性に配慮した個別対応が要求される。ところが,歯科診療時におけるASD 児の対応法に関する情報はいまだ不十分である。そこで,当科にて歯科診療時に行ったASD 児への個別対応のうち効果的であったものを報告する。症例1 初診時2 歳11 か月,男児,高機能自閉症・AD/HD(注意欠如・多動性障害)この患児は,3 歳時既に全ての平仮名と数字が読めた。そこで,診療に対する混乱の除去のため,文字情報で予定を可視化した(Word Schedule)。予定の最後を「ごほうび」と記し,強化子として患児の好きなキャラクターの塗り絵を使用した。症例2 初診時6 歳11 か月,男児,自閉症(知的障害を伴う)絵カードを予定の順に並べ(予定の構造化),入室前に患児へ見せた。治療のステップが1 つ終わる度に,褒め言葉と同時に○のサインボードを見せた。これは,言葉だけでなく視覚的にもできたことや褒められたことを認識できるようにするための援助である。以上の対応により,スムーズに診療が行えた。このように,ASD 児の歯科診療の際には,個々の発達レベルや行動を十分に観察した上で個別化された支援方法により対応することが有効と考えられた。