2017 年 55 巻 1 号 p. 51-60
ミュータンスレンサ球菌(MS)の小児プラークへの定着状況および定着量と齲蝕罹患状況との関連性を明らかにすることを目的に,菌種特異的PCR 法(cPCR)および定量的PCR 法(qPCR)を併用した解析を行った。さらに,口腔レンサ球菌特異的プライマーを開発し,プラーク細菌中の口腔レンサ球菌,S. mutans の存在比率についても検討した。その結果,cPCR とqPCR を併用することで98 名の被験者はS. mutanshighS. sobrinus+群,S. mutanshighS. sobrinus-群,S. mutanslowS. sobrinus-群,S. mutans−S. sobrinus-群の 4 群に大別された。4 群中S. mutanshighS. sobrinus+群でプラーク全細菌中の口腔レンサ球菌,S. mutans の構成比率が最も高く,平均df 歯率は他群と比較して有意に高かった。cPCR でS. mutans のみ陽性の群は,S. mutanshighS. sobrinus-群とS. mutanslowS. sobrinus-群に細分され,前者は後者と比較して有意に高いdf 歯率を示し,S. mutans 量とdf 歯率とは有意の正の相関を示した。一方,S. mutanslowS. sobrinus-群ではS. mutans−S. sobrinus-群と比較してdf 歯率に有意差は認められなかった。以上の成績より,小児プラーク中へのMS,特にS. mutans の定着量の増加が小児齲蝕発症に繋がる重要な要因であることが強く示唆された。小児プラーク中のMS の定量解析は,小児齲蝕発症機序の詳細解明への手がかりを与えるとともに,小児齲蝕のリスク診断のための有効な手段となり得る可能性が示唆された。