2019 年 57 巻 1 号 p. 7-14
ヒト齲蝕の主要な病原細菌であるStreptococcus mutans は,口腔内においてバイオフィルムを形成し,その病原性を発揮する。S. mutans の菌体表層に存在するグルカン結合タンパク(Gbp)において,これまでのところGbp には,GbpA, GbpB, GbpC および,GbpD の4 種類が報告されており,そのうちGbpA は,バイオフィルム形成に最も深く関与していると考えられている。 分子シャペロンGroEL およびDnaK はストレス応答タンパクともいわれ,新たなタンパクの生成や発現量の変化を誘発することよってさまざまな生命現象において重要な役割を果たしている。本研究では,S. mutans のバイオフィルム形成に関与する表層タンパクおよびストレス応答タンパクの発現について分子生物学的手法を用いて検討した。 GbpA 欠失変異株(AD1)を作製しバイオフィルム形成能を検討した。親株およびAD1 によって形成されたバイオフィルムの構造を共焦点レーザー顕微鏡による画像にて比較したところ,親株と比較してAD1 では,菌体外多糖の産生が顕著に増加しており,これによりバイオフィルムの厚みは上昇していたが,密度は低下していることがわかった。そこで菌株間の結合度を調べるため超音波粉砕試験を行ったところ,親株と比較して,菌体間結合力は弱いことが明らかとなった。DnaK およびGroEL をコードするdnaK, groEL の発現は親株と比較してAD1 で上昇していた。以上より,GbpA は種々のタンパク発現に影響を与えるとともに,均一で強固なバイオフィルムを形成するために極めて重要なタンパクであると示唆された。