2019 年 57 巻 1 号 p. 80-86
乳歯齲蝕罹患の状態を分析することを目的として,東京都内の歯科診療所に来院した3 歳の初診患者を対象に1970 年代,1980 年代,1990 年代,2000 年代,2010 年代まで,約10 年ごとに齲蝕有病状況の経年推移を調査した。
1 .齲蝕有病者率ならびに1 人平均齲歯数は,1970 年代から2010 年代にかけて減少傾向を示し,特に1990 年代から2000 年代にかけての減少が大きかった。
2 .歯面別齲蝕有病者率は,1970 年群から1990 年群までは下顎第二乳臼歯咬合面または下顎第一乳臼歯遠心面が最も高かったのに対し,2000 年群,2010 年群では上顎乳中切歯近心面の方が高い数値を示した。 このことから,齲蝕の好発部位は2000 年群以降,下顎乳臼歯咬合面・隣接面から上顎乳中切歯近心面に変化したことが明らかとなった。
3 .下顎乳切歯の齲蝕有病者率は,1970 年群から他の歯種に比べて低く,2000 年以降は齲蝕が見られなかった。
4 .1990 年代から2000 年代にかけての大幅な齲蝕減少については,各自治体での低年齢からの歯科健診の導入や定期的にフッ化物歯面塗布を受けられる体制が普及したことによるものと考えられた。
5 .上顎乳中切歯近心面の齲蝕予防については,低年齢からのデンタルフロスの使用など個々の口腔内状況に応じたセルフケアと歯科診療所での定期的なプロフェッショナルケアの実施が重要であると考えられた。