2020 年 58 巻 2 号 p. 67-73
小児の軟組織疾患は多岐に渡り,その中には軟組織への異物の迷入も含まれる。水酸化カルシウム製剤は,乳歯の根管充塡剤として用いられるが,その性状から歯科治療中の偶発症として,根管充塡糊剤の根尖孔外への漏出がある。今回,われわれは上顎左側乳中切歯根管充塡後に歯肉に生じた白斑が4年間消失せず,審美障害を主訴に来院した症例を経験したので報告する。
現病歴および検査所見から,白斑は外来性の異物と判断し,摘出を行った。病理組織検査より,摘出した異物は歯科材料の残留である可能性が示された。異物の成分分析を行った結果,バリウム,硫黄,チタン,ケイ素,アルミニウム,ナトリウムといった成分が検出された。同時に数種類の根管治療薬の成分分析を行い比較したところ,カルシペックスⅡ®の成分とその多くが一致した。
根管内に充塡された根管充塡糊剤は乳歯の歯根吸収に伴い吸収し,根尖孔外に漏出した場合も,時間経過とともに生体内に吸収されていく。しかし,水酸化カルシウム以外の成分は吸収されずに残存する可能性がある。本症例のように永久歯の交換には影響がなくとも,長期間変化がなく停滞する場合があるため,根管充塡をする際の操作に注意する必要がある。また,根管充塡直後に根管充塡剤の根尖孔外への漏出がないかをデンタルエックス線写真にて確認する必要がある。そして定期的に根管充塡剤の吸収状態だけでなく,永久歯胚の位置の変化などにも留意する必要がある。