Prevotella melaninogenicaはヒトの口腔に常在するグラム陰性嫌気性細菌で,化膿性疾患からも病原体として分離される。しかし,P. melaninogenicaの病原因子についてはほとんど知られていない。近縁種である歯周病細菌Porphyromonas gingivalisやTanerella forsythiaは,9型分泌機構(T9SS)を介してプロテアーゼや細胞表面タンパク質などの病原性因子を分泌する。ゲノム解読を行い,P. melaninogenicaにもT9SSのすべての既知オルソログが存在することから,本菌においても機能的なT9SSが存在することが示唆された。私たちはT9SSの主要構成タンパクであるPorKをコードする遺伝子の欠損株をP. melaninogenica GAI 07411において構築した。porK欠損株では,赤血球凝集とバイオフィルム形成が減少していた。また野生型株とporK欠損株の培養上清を精製し,プロテオーム解析を行ったところ,porK欠損株からの分泌タンパク質の数が減少していた。感染実験では,porK欠損株を接種したマウスの死亡率は,野生型株と比較して統計的に有意に減少していた。これらの結果から,P. melaninogenicaがT9SSを介してこの細菌の病態形成に関与する強力な病原性タンパク質を分泌することが示唆された。
本研究は成人期前期における口唇閉鎖力,舌圧の測定値と歯列模型の三次元スキャンデータより,口腔の機能と形態の関係を検討し,評価手法を検討することを目的としている。
歯列の健全な若年成人102名(男性62名26.2±3.3歳,女性40名24.4±3.6歳)を対象とした。事前に研究内容を説明し,同意を得た対象者に口唇閉鎖力と舌圧の測定を行い,上下顎歯列模型を採得した後,模型の三次元的形態計測を行った。口唇閉鎖力,舌圧の測定値と得られた三次元データにおける各々の模型計測値との相関,各測定値の男女差,模型計測値について検討した。
その結果,口唇閉鎖力と舌圧には相関があり,男性においては,舌圧と両側上顎第一大臼歯咬頭間距離,口蓋側歯頸部間距離に有意な正の相関が認められた。また,舌圧,口唇閉鎖力,上顎の第一小臼歯口蓋側最深部距離,第二大臼歯歯間距離,第一大臼歯歯間距離,口蓋深さ,口蓋容積,口蓋表面積に有意な男女差を認めた。
歯列模型の三次元データにより,成長が終了し歯列咬合が安定した成人期前期において口蓋の容積を含めた詳細な計測が可能であった。今後は幼児期・学童期を対象とした研究を継続する予定である。
わが国の出生率は大きく低下し,小児を取り巻く環境に時代的変化がある。それに伴い大学病院小児歯科の役割にも変化がみられる。そこで大学病院に来院する患児の近年の傾向および地域性の違いを把握するために,2016年からの3年間に本学水道橋病院小児歯科(以下,水道橋)および,千葉歯科医療センター小児歯科(以下,千葉)を受診した16歳未満の初診患児を対象に,来院患児数,初診時年齢,来院動機,乳歯列齲蝕有病者の状況などを調査し,以下の結論を得た。
1.16歳未満の初診患児数は,水道橋が2,538人,千葉が2,850人であった。年別推移でみると,千葉は減少しており水道橋は増加していた。
2.来院動機は,両施設ともに齲蝕治療(水道橋:40.0%,千葉:39.6%)が多く,次いで歯列不正(水道橋:19.3%,千葉:18.3%)が多かった。齲蝕治療を来院動機とする患児は,水道橋では2歳(60.5%),千葉では4歳(64.7%)が最も多かった。
3.乳歯列期の初診患児における齲蝕有病者率は,水道橋では4歳(70.2%),千葉では3歳(56.6%)が最も高かった。
4.齲蝕有病者の年齢別df歯率は,両施設ともに4歳(水道橋:40.7%,千葉:43.5%)が最も高かった。
5.大学病院小児歯科では,齲蝕治療を希望して来院するものが多く,低年齢児であっても重症齲蝕罹患者が含まれていた。
上顎前歯部過剰歯の抜去にあたっては,術式の検討に加えて小児の協力度の事前評価が不可欠である。今回著者らは平成22年1月から平成30年12月までの9年間に本学付属歯科病院小児歯科外来を受診し,上顎前歯部に過剰歯を有していた小児を対象として,術中管理法の選択に関連する項目について調査した。
その結果,下記の知見を得た。
1.男女比は約2.5:1であった。
2.1人当たりの過剰歯数は萌出歯,埋伏歯共に1歯が最も多く,萌出歯の抜去は6歳時,埋伏歯の抜去は6~8歳時に行われることが多かった。
3.術中管理法は通常下が最も多かったが,埋伏過剰歯に限定すると全身麻酔下が49%と最も多く,通常下,静脈内鎮静法下の順であった。
4.Franklの分類による小児の協力度と術中管理法との関連性について,埋伏過剰歯の抜去を行った381名を対象として検討した結果,二項ロジスティック回帰分析にて有意な(p<0.001)関連が認められ,協力度が良好な小児の多くは通常下で抜歯術を施行されていた。
5.183名を対象に埋伏過剰歯の深度と術中管理法の関係を調べた結果,両者に有意な関連は認められなかった。
以上より,小児の協力度および埋伏過剰歯の深度については術中管理法を決定するうえで共に検討が不可欠と考えられるが,当科においては協力度が主要な判断基準になっていることが示された。
松原市歯科医師会(大阪府)では,治療の困難な小児や障害者の地区歯科医師会会員間での患者紹介システムを構築した。このシステムが地区歯科医師会内でどのように浸透し,どのような小児患者(18歳未満)が紹介されてくるかを分析検討し以下の結果を得た。
1.2013年10月から2019年12月の6年3か月間に紹介元医院数は14医院と市内の歯科医師会会員医院の24%にまで浸透した。
2.紹介元では主に齲蝕で痛みを訴えているが,低年齢・障害がある・歯科治療に関する過去の経験で恐怖心があるなどで対応できずに困っている様子がうかがえた。
3.小児患者の年齢は6歳未満が多数を占め,紹介理由は不協力小児が圧倒的に多いが,その中には紹介元では問診や治療時対応より障害の有無が判定できておらず,来院時に知的障害・自閉症・ADHDなどに新たに分類される場合が10%程度あった。
4.紹介から来院までの日数は中央値が5日であり,齲蝕で痛みがあり迅速な治療が必要な小児患者の半数以上が前医受診から1週以内に小児歯科専門医を受診していた。
5.不協力小児は緊急性のある4例がレストレーナーを使用したが,その他はTell-show-doやボイスコントロール法に加えて歯科衛生士による抑制で十分対応でき,抑制が全く不要な場合もあった。
地区歯科医師会内での小児患者紹介システムは,小児患者の紹介が促進され,地域の小児患者への歯科治療が充実してきている。
小児の軟組織疾患は多岐に渡り,その中には軟組織への異物の迷入も含まれる。水酸化カルシウム製剤は,乳歯の根管充塡剤として用いられるが,その性状から歯科治療中の偶発症として,根管充塡糊剤の根尖孔外への漏出がある。今回,われわれは上顎左側乳中切歯根管充塡後に歯肉に生じた白斑が4年間消失せず,審美障害を主訴に来院した症例を経験したので報告する。
現病歴および検査所見から,白斑は外来性の異物と判断し,摘出を行った。病理組織検査より,摘出した異物は歯科材料の残留である可能性が示された。異物の成分分析を行った結果,バリウム,硫黄,チタン,ケイ素,アルミニウム,ナトリウムといった成分が検出された。同時に数種類の根管治療薬の成分分析を行い比較したところ,カルシペックスⅡ®の成分とその多くが一致した。
根管内に充塡された根管充塡糊剤は乳歯の歯根吸収に伴い吸収し,根尖孔外に漏出した場合も,時間経過とともに生体内に吸収されていく。しかし,水酸化カルシウム以外の成分は吸収されずに残存する可能性がある。本症例のように永久歯の交換には影響がなくとも,長期間変化がなく停滞する場合があるため,根管充塡をする際の操作に注意する必要がある。また,根管充塡直後に根管充塡剤の根尖孔外への漏出がないかをデンタルエックス線写真にて確認する必要がある。そして定期的に根管充塡剤の吸収状態だけでなく,永久歯胚の位置の変化などにも留意する必要がある。