2022 年 60 巻 1 号 p. 28-32
Cayler cardio-facial症候群は,啼泣時の顔面非対称と先天性心疾患を合併した疾患である。啼泣時の顔面非対称性は片側の口角下制筋形成不全または欠損によるものだが,口腔内所見についての報告はない。今回,われわれはCayler cardio-facial症候群の患児を経験し,口腔内所見も含めて検討したので,その概要を報告する。
患児の初診時年齢は3歳3か月で,男児であった。出生時,心室中隔欠損症と診断されたが,1歳時に自然閉鎖した。安静時の顔貌は左右対称性であったが,啼泣時や開口時に右口角と下口唇が下がらず,左右非対称が認められた。発音,捕食,咀嚼,嚥下などの機能については問題がみられなかった。ターミナルプレーンは左側が遠心階段型,右側が垂直型であり,乳犬歯咬合関係はⅠ型で,過蓋咬合であった。歯列弓幅径は,明確な左右差を認めなかった。開口時の顔貌左右非対称は,7歳時でも認められた。心室中隔欠損症は,1歳時に自然閉鎖し,その後は運動制限や心雑音もないので,歯科治療上,歯科治療の可否,アドレナリン使用量,感染性心内膜炎の予防などについて配慮すべき事項はなかった。Cayler cardio-facial症候群における片側の口角下制筋形成不全または欠損は,口腔内への影響はないと考えられた。しかしながら,啼泣時や開口時に顔貌の左右非対称を認めた場合,心疾患の有無について聴取すべきと考えられた。