小児歯科学雑誌
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60 巻, 1 号
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総説
  • 千葉 雄太
    原稿種別: 総説
    2022 年 60 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2022/02/25
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル 認証あり

    歯の形成異常は歯胚発生過程における遺伝子制御機構の異常が関与していると考えられているが,その原因遺伝子や疾患発生に関わる分子機序はいまだに不明な点が多い。特に,歯原性上皮細胞の中でも中間層細胞,星状網細胞,および外エナメル上皮細胞などに関しては解析が進んでおらず,そのマーカー遺伝子や細胞機能が同定されていない。われわれは近年新規に樹立された遺伝子発現スクリーニング法である,シングルセルRNAシーケンスを用いて,マウス切歯歯胚を構成する細胞の単一細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果,分泌期エナメル芽細胞は,2つの細胞集団に分類され,それぞれ異なる細胞特性を有することを明らかとした。加えて,本シングルセルRNAシーケンスデータを応用し,Helix症候群の責任遺伝子であるクローディン10が中間層細胞の新規マーカー遺伝子であり,歯の石灰化に重要な役割を有することを明らかとした。以上の結果より,本研究で樹立したシングルセルRNAシーケンスデータが歯原性細胞マーカー遺伝子の探索,および疾患遺伝子の病因解明に有用であることが示唆された。

  • 森川 優子
    原稿種別: 総説
    2022 年 60 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2022/02/25
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル 認証あり

    グラム陽性細菌Streptococcus mutansは,ヒト齲蝕の主要な病原性細菌であり,口腔内のバイオフィルム形成において重要な役割を担うことが知られている。この菌の細胞膜には,多くの膜輸送体が存在し,物質の取り込みに関与し,この菌の生育に大きく関与している。口腔内においてS. mutansは温度変化,pH変化,栄養状態,および外来物質の侵入などのストレスに晒されている。膜輸送体はこのようなさまざまな環境の変化に曝露される際に,環境変化によるストレスに応答するために機能することが報告されている。グラム陽性細菌にとって,窒素は生育に必要な栄養素であり,窒素源であるグルタミンの取り込みは細菌の生理機能にとって重要な役割を果たしているといえる。本研究では,S. mutansにおける グルタミン膜輸送体(GlnP)の機能について検討した。

    S.mutansのGlnP欠失株および相補株を用いて増殖速度を調べたところ,欠失株にのみグルタミンの影響は認められなかった。また蛍光プローブによる細胞膜輸送の解析において欠失株の蛍光偏光度は有意に低下しており,GlnPが膜輸送体であることが示された。さらに欠失株のバイオフィルム構造は粗造であり,密度は粗であった。

    以上の結果より,GlnPは膜輸送体の1つであり菌の増殖,菌体内へのグルタミン輸送に関与し,バイオフィルム形成に重要な役割を果たすことが示された。

原著
  • 山根 陽, 海原 康孝, 香西 克之
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 1 号 p. 14-19
    発行日: 2022/02/25
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル 認証あり

    保育施設の事故防止の一助となることを目的に,2017~2018年の2年間に某認定こども園において頭部および口腔顎顔面部を受傷した695件を対象とし,受傷状況や実態について調査し,以下の結果を得た。

    1.受傷件数は4歳児が最も多かった。1人当たりの平均受傷件数が最も多いのは2歳児の3.85件であった。

    2.受傷部位は頭部外傷では前頭部,顔面外傷では眼,口腔外傷では口唇が最も多かった。

    3.頭部,顔面,口腔のいずれの外傷においても午前のほうが午後よりも受傷件数が多かった。また,受傷時の平均年齢は午前のほうが午後よりも低かった。

    4.屋内のほうが屋外よりも受傷件数が多かった。屋外ではグラウンドが,屋内では保育室が最も多かった。

    5.受傷園児の平均年齢は屋内のほうが屋外よりも低かった。

    6.受傷内容は,頭部,顔面,口腔のいずれの外傷においても打撲が最も多かった。

    7.発生頻度は3月が最も多かった。

    8.口腔外傷については,屋内よりも屋外のほうが受傷件数が多かった。また,3歳児の受傷が最も多かった。

    以上より,認定こども園児の頭部および口腔顎顔面部外傷について,起こりやすい年齢,時期,時間帯,場所,および部位が示された。今後は,本調査の結果を事故防止するうえでの基本的な情報として周知し,小児歯科医として園と連携を図り,頭部および口腔顎顔面部外傷への安全対策や啓発活動に取り組む必要があることが示唆された。

  • 黒厚子 璃佳, 岩田 こころ, 中川 弘, 長谷川 智一, 上田 公子, 北村 尚正, 赤澤 友基, 杉本 明日菜, 河原林 啓太, 宮嵜 ...
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 1 号 p. 20-27
    発行日: 2022/02/25
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル 認証あり

    障害児や有病児への理解の深まりから社会環境や福祉制度の整備が進みつつあるが,障害や全身疾患をもつ児が地域において疾病予防も含めた歯科医療を受けられる環境がいまだ十分にあるとは言えず,実情に応じた環境整備が求められる。そこで,今回,平成25年度から平成29年度に当科を受診した児のうち障害児・有病児の5年間の初診時実態調査を行い,過去に当科で行った調査と比較し,近年の変化を検討した。初診患者1,301名のうち,障害児・有病児の割合は49%であった。障害児・有病児640名のうち,本調査では身体障害,感覚器障害,内部障害,発達障害,痙攣性疾患,先天性奇形,染色体異常,遺伝子異常に着目し分析を行った。その結果,延べ323名が該当し,内訳は身体障害4%,感覚器障害11%,内部障害15%,発達障害34%,痙攣性疾患8%,先天性奇形14%,染色体異常8%,遺伝子異常6%であった。主訴は,齲蝕が最も多く31%であった。次いで,口唇口蓋裂17%,定期管理14%,外科処置11%,咬合誘導8%,外傷4%,摂食訓練3%と続いた。紹介状を持参した児は93%,持参しなかった児が7%であった。居住地別患者数は,市町村でみると当院の位置する徳島市が37%で最も多かった。次いで阿南市10%,鳴門市8%であった。徳島県外からの来院は9%であった。過去の調査と比較し,障害児・有病児の割合は増加していた。障害児・有病児における歯科的課題および取り巻く環境を患児側や医療従事者側のそれぞれの立場に立って分析していくことによって,両者のニーズに応えるよう努めていかなければならない。

症例報告
  • 脇田 真紀, 上野 里絵, 井上 緋里, 副島 之彦, 小笠原 正
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 1 号 p. 28-32
    発行日: 2022/02/25
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル 認証あり

    Cayler cardio-facial症候群は,啼泣時の顔面非対称と先天性心疾患を合併した疾患である。啼泣時の顔面非対称性は片側の口角下制筋形成不全または欠損によるものだが,口腔内所見についての報告はない。今回,われわれはCayler cardio-facial症候群の患児を経験し,口腔内所見も含めて検討したので,その概要を報告する。

    患児の初診時年齢は3歳3か月で,男児であった。出生時,心室中隔欠損症と診断されたが,1歳時に自然閉鎖した。安静時の顔貌は左右対称性であったが,啼泣時や開口時に右口角と下口唇が下がらず,左右非対称が認められた。発音,捕食,咀嚼,嚥下などの機能については問題がみられなかった。ターミナルプレーンは左側が遠心階段型,右側が垂直型であり,乳犬歯咬合関係はⅠ型で,過蓋咬合であった。歯列弓幅径は,明確な左右差を認めなかった。開口時の顔貌左右非対称は,7歳時でも認められた。心室中隔欠損症は,1歳時に自然閉鎖し,その後は運動制限や心雑音もないので,歯科治療上,歯科治療の可否,アドレナリン使用量,感染性心内膜炎の予防などについて配慮すべき事項はなかった。Cayler cardio-facial症候群における片側の口角下制筋形成不全または欠損は,口腔内への影響はないと考えられた。しかしながら,啼泣時や開口時に顔貌の左右非対称を認めた場合,心疾患の有無について聴取すべきと考えられた。

  • 出口 崇, 波多野 宏美, 萩原 岳, 杉澤 香恵子, 松尾 恭子, 白瀬 敏臣, 内川 喜盛
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2022/02/25
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル 認証あり

    過剰歯の発生は上顎前歯部に多く,永久歯の萌出障害等の原因となるため,小児歯科の臨床の現場で対応する頻度は高い。今回,上顎前歯部の過剰歯を抜去後,同一部位に再び埋伏過剰歯が出現した稀な2例を経験したので報告する。

    1例目は,6歳2か月,男児。順生の萌出過剰歯および埋伏過剰歯による永久前歯の萌出障害のため,全身麻酔下にて過剰歯2本を抜去した。その後,永久前歯の萌出状態の確認を行っていたが,処置24か月後に再び同部位に埋伏過剰歯1本を認め,全身麻酔下にて摘出を行った。その後,上顎左側中切歯の自然萌出は困難と考え,開窓,牽引処置を行い,現在良好な永久歯咬合の獲得に向けて継続して管理している。

    2例目は,4歳8か月,男児。上顎正中部に順生過剰歯1本の萌出を認め,上顎右側中切歯歯胚が捻転していたことから通常下にて過剰歯を抜去した。その後,定期検診を継続し,処置24か月後に同部位に埋伏過剰歯2本が再び認められたため,全身麻酔下にて摘出を行った。その後は,永久前歯の自然萌出傾向を認めた。

    複数の過剰歯を認めた報告は多数あるが,本症例のように過剰歯が再び同部位に発症した報告は僅かであり,きわめて稀な症例と考えられた。また,2症例共,約2年後に確認された過剰歯により再び永久歯の萌出障害を認めたことから,過剰歯抜去後も長期に歯の萌出状態を確認し,適時エックス線検査で経過を確認する必要性があると考えられた。

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