2022 年 60 巻 2 号 p. 62-73
永久歯の萌出異常は小児歯科臨床において散見される。多くの場合,適切な時期に処置介入することで萌出を促すことが可能である。その一方で対応が困難で苦慮する場合や萌出させることができない場合がある。今回われわれは,通法どおりの対応で萌出誘導が可能であった「良好群」4症例と,骨性癒着を疑い牽引が困難,あるいは不可能であった「非良好あるいは難症例群」4症例の治療経過を提示し,術前診査所見を両群間で比較検討した。そして以下の知見を得た。
1.術前エックス線写真診査において,患歯の歯根膜に不明瞭な像があれば骨性癒着を疑う。特にCBCTによる三次元的精査が有効である。
2.明らかな萌出障害物がないにも関わらず,歯冠の一部を歯肉縁上に露出して萌出を停止している場合には骨性癒着を疑う。
3.患歯や隣接部への受傷,あるいは過剰歯の抜去など患歯歯根膜損傷の原因になり得る既往の有無について問診する。既往があれば萌出誘導が困難である可能性を考慮する。
4.骨性癒着歯の特徴として広く知られる打診音の変化や生理的動揺の喪失は,早期の骨性癒着では検出されにくい。
以上から牽引など萌出誘導が困難と予測される場合には,治療開始前に処置の侵襲性とその効果について十分に検討する。さらに治療結果の不確実性やその後の対応策を患児や保護者に十分説明し,共有しておくことが臨床的に重要である。