小児歯科学雑誌
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症例報告
上顎犬歯の異所性埋伏による中・側切歯の重度歯根吸収を認めた一例
阿部 洋子池本 博之林 久恵小佐々 康田中 秀和原田 京子有田 憲司
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2023 年 61 巻 1 号 p. 44-53

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抄録

患児は10歳8か月の男児で,上顎左側犬歯の異所性埋伏により隣接する側切歯と中切歯に歯髄腔に及ぶ重度の歯根吸収と動揺を認めた。埋伏犬歯の歯小嚢の厚さは3.5 mmで含歯性嚢胞化しており,犬歯の尖頭の位置は上顎左側中切歯歯根の遠心側1/2に及び,近心傾斜角度は26.5°であった。上顎左側側切歯は歯根長の1/2以上が吸収されており,左側中切歯の歯冠―歯根長比は4:3で,健側の右側中切歯の歯根長の64%であった。左側の下顎側切歯が先天欠如であったため,重篤な歯根吸収を呈した側切歯を抜去し,中切歯の遠心側に犬歯を萌出させるという治療方針を立てた。残存乳犬歯および側切歯の抜去により,埋伏犬歯は12か月後に中切歯の遠心歯列内に自然萌出し,歯軸も自律的に改善した。同時に,犬歯尖頭が中切歯歯根から離れることによって中切歯の歯根吸収は停止し,歯槽骨の再生が生じ,動揺は消失した。

抜歯2年8か月後の歯科用CBCT画像から,保存した上顎左側中切歯の歯根全周に歯槽硬線が確認され,歯根吸収によって露出していた根管は,根端部の象牙質の形成により狭窄し,根尖孔が観察された。

本症例において,異所性埋伏犬歯により重度に吸収された永久切歯は,その原因を除去することにより長期的予後は良好となる可能性が示唆された。しかし,加齢に伴い歯根吸収した切歯の動揺度が増加する可能性があるため慎重な口腔管理が必要であると考える。

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© 2023 日本小児歯科学会
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