2024 年 62 巻 3 号 p. 104-110
低ホスファターゼ症は,乳歯早期脱落を特徴とし,骨の形成不全,歩行障害,骨痛などの症状を認める歯や骨の石灰化障害をきたす遺伝子疾患である。低ホスファターゼ症の症状と類似した疾患に,くる病がある。くる病は,カルシウム,リンの代謝異常を特徴とする骨系統疾患である。
今回われわれは,初診時に乳歯早期脱落既往を聴取し,下肢痛を訴えていたことから低ホスファターゼ症を疑い,医科にて精査した結果,ビタミンD欠乏性くる病の疑いと診断した症例を経験したので報告する。
患児は,上顎右側側切歯の萌出遅延を主訴に本院初診を受診した。その際,3歳頃に乳歯早期脱落既往があった旨を,低ホスファターゼ症を心配した保護者から聴取した。乳歯早期脱落既往と下肢痛から,低ホスファターゼ症を疑い,医科にて精査を施行した。その結果,ビタミンDの充足の指標となる血中25水酸化ビタミンD濃度の低値,膝関節単純エックス線の所見と骨痛から,ビタミンD欠乏性くる病の疑いと診断,ビタミンD補充治療を施行した。補充治療開始後,歯科にて発育不全の上顎右側側切歯の歯胚摘出の処置を行った。歯科来院時には,下肢痛および腰痛は減弱した。今後,このような全身疾患をもつ患児が適切な治療を受けられるよう,小児歯科と医科との連携の重要であることが示唆された。