抄録
筆者らは上顎右側中切歯の脱落,同側々切歯の陥入による審美障害を主訴とし,受傷約40時間経過後,岐阜歯科大学病院小児歯科を受診した8歳7カ月の男児に再植,固定処置を施し,約1年3カ月経過観察を行ない,臨床的にみて一応の成功を収めた症例を経験したので報告する。
患児はプールで遊泳中,コンクリート縁に中切歯,側切歯を強打し,それぞれ脱落,陥入した。脱落歯は付着軟組織を除去後,抗生物質溶液中に20分間浸漬した後,Calvital®による根充を施し,これを通法により洗浄された歯槽窩に挿入し,整復した側切歯と共に固定した。
再植後,臨床的にもX線的にも予後良好であったが,術後約9カ月時,根尖および根尖周囲に透過像が認められるようになった。しかし,臨床的には骨植堅固であり,経過観察することに決定した。
顎骨の発育途上にある小児患者では,いずれは脱落の運命にあるとは言え,再植されなければ将来口腔内に様々な障害が考えられ,再植後数年間でも自分の歯牙として保持され機能を発揮することができれば,患者が抱く歯牙の喪失に対する心理的投影にも好影響が期待でき,目的の一部は達せられたと言えよう。