抄録
乳歯過剰歯の発現頻度は,永久歯過剰歯のそれより,非常に少ない。われわれは,永久歯列においても珍らしいといわれる犬歯形をとった両側性の乳歯過剰歯を,3歳5カ月の男児にみいだした。
過剰歯所見は,上顎両側の乳側切歯と第一乳臼歯の間に,乳犬歯が2本つつ,ともに歯列上に萌出している。X線所見では,各々の歯は独立し,歯根はほぼ完成し,正常乳犬歯の解剖学的形態を示している。その部位の後継永久歯の有無は不明である。
症例は,藤田の乳歯の過剰歯の判定規準にそしてさらに,歯冠の色沢,歯根の完成度,歯髄腔の大きさなどを参考にして,真性の乳歯過剰歯と判定した。
どちらの乳犬歯を過剰歯するかについてわれわれは,石膏模型分析の結果,前方の乳犬歯のみの歯冠巾径が-1SDより小さく,他の乳歯は全て(後方の乳犬歯も含めて)正常範囲内に入っていることより,前方の乳犬歯を過剰歯とした。
現在まだ,過剰歯の萌出機序はあきらかではないが,発生学的な隔世遺伝説と,歯胚の機械的分離説の2つがある。本症例では,形態及び大きさがともに正常形に近く,また犬歯部にあらわれたということより,歯牙原基の分裂説のほうをとりたい