小児歯科学雑誌
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乳臼歯に使用された亜砒酸糊剤が原因と思われる歯槽骨及び後継永久歯障害の一例
北村 京一増田 典男今西 秀明落合 伸行
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1981 年 19 巻 3 号 p. 613-618

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抄録
亜砒酸糊剤は,歯髄失活剤として,現在でも広く使用されている。しかしその薬理作用を考慮すると,乳歯への応用は非常に大きな危険性を有している。これまでにも,主として骨疽を呈した症例についての報告がなされてきたが,現在なお不用意に使用されているようである。
今回著者らは,乳臼歯に貼布された亜砒酸糊剤によると診断された骨疽および後続永久歯障害の一例を経験したので報告する。
患児は4歳5カ月の女児で,Eの早期脱落,ひきつづいての歯槽骨片の脱落を主訴として来院した。口腔内診査の結果,E部歯肉の異常な退縮と,動揺が著るしく褐色を呈したの歯冠部が認められた。またX線診査により,E部の歯槽骨の欠如と,歯肉内に孤立し5 ,歯根の全くない5が認められた。持参した歯槽骨片について,乳歯側および永久歯側の螢光X線分析を行なった結果,健全な歯槽骨には認められなかった砒素が検出された。以上の所見から,本症例は,第2乳臼歯に貼布された亜砒酸糊剤により歯周組織が障害を受け,骨疽形成ならびに5の歯胚の石灰化およびその成長が阻害されたものと診断された。約2年後の現在では,わずかながら5の歯根に成長が認められ,観察を続けている。
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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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