1982 年 20 巻 1 号 p. 15-20
本研究は萌出後間もない幼若永久歯エナメル質表面の,萌出後成熟の過程を明らかにすることを目的に行われた.
被検歯は,11歳群,13歳群,18歳群の,矯正科を訪れた患者6名から得た無齲蝕第一小臼歯11本で,歯冠部を頬舌方向に切断し,厚さ約100μの薄切研磨切片とした.この試料を偏光顕微鏡法,顕微X線法,ならびにEPMAによる元素分析法により観察した.
11歳群では,water封入により偏光顕微鏡で正の複屈折を示す層(表層約70μ)に一致して顕微X線豫にX線透過性の大な部分が認められ,air封入で正の複屈折を示す層(表層約100μに一致してEPMAでCa,Pの強度が6~7%減少していた.エナメル質最表層で負の複屈折を示した15~20μの薄層では,X線不透過像が観察され,Ca,Pの強度の減少も内層程大きくなかった.このことから,偏光顕微鏡で正の複屈折を示す層は,結晶の配向性が異なるためではなく,石灰化の不十分な未成熟層であることが明らかになった.13歳群では正の複屈折を示す層はその深さを減少した.18歳群では全層が負の複屈折を示し,Ca,Pの強度も一定でエナメル質全層の石灰化が完了していることを示した.
以上の結果から,エナメル質表層は萌出後唾液成分等の影響を受け,まず最表層の石灰化が進行し,この石灰化の影響で徐々に内部の未成熟部分の石灰化が進行し,最終的には全層の石灰化が完了すると考えられる.