抄録
本論文では,歯質中の微量金属とくにCd・Za・PbおよびCuについてフレームレス原子吸光法を用いて,ppbレベルの定量性について検討を行った.すなわち,Ca・Pの除去・各微量金属の分離のために多孔性陽イオソ交換樹脂Amberlite-200を支持体とし,揮発性溶液系による液体クロマトグラフィーを用い良好な分析結果を得た.
さきに,西村は,フレームレス原子吸光法を検討し,微量金属の測定には,Ca・P等の共存イオンの干渉のため各微量金属の単離,一定の酸溶液を溶媒とすることの必要性を明確にした.さらに,進士は分離性の良い,操作を簡易化しうる塩酸・アセトン混合溶液を溶離液とする液体クロマトグラフィーを用いたフレームレス原子吸光法を提供した.
今回,これをもとに,さらに分離・濃縮性の良い多孔性陽イオン交換樹脂Amberlite-200を用い,定量性の向上を計り,その精度を確認した.そして,実際に,人乳歯エナメル質・象牙質中の微量金属を定量し,平均値(μg/g)・標準偏差はそれぞれCd 0.83±0.558・0.30±0.222, Zn 176.43±32.894・127.53±14.708, Pb 13.85±10.227・26.34±22.440 およびCu 3.92±3.413・2.49±2.465を得た.
その結果,この測定法が,ppbレベルの測定に極めて有効で,当初の目的である組織構造と対応した乳歯中の微量金属の検討を可能にすることを証明した.