小児歯科学雑誌
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下顎乳犬歯部にみられた低位乳歯の1症例
河田 典雄鍋田 和孝今村 基遵河合 良明
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1983 年 21 巻 1 号 p. 131-139

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抄録
歯列内の乳歯が咬合平面に達していない場合,これを低位乳歯と呼んでおり,好発部位は乳臼歯とされている。しかし,今回我々は初診時2歳4カ月の女児の下顎右側乳犬歯部に低位乳歯を認めた。口腔内はHellmanの歯年齢ではIC期で齲蝕はみられなかった。患歯には咬耗,触診による動揺もなかった。また,既往歴,家族歴に特記事項はなかった。この症例を約4年間にわたり経年的に観察し,組織学的検索をも行った。
患歯は,年々その臨床的歯冠長が短かくなり,4年後には尖頭の一部しか見られないほどになったため抜歯した。抜歯前のX線写真では,歯根膜腔はわずかではあるが認められ,また,後継永久歯胚もあり,その左右差はなかった。抜去歯は根に異常が認められ,短かく,その面は粗〓であった。
病理組織標本によると,歯冠象牙質に空隙が認められ,象牙細管の走向は不規則であった。歯根部ではセメント質の凹凸の激しい肥厚があり,歯髄も全体的に線維化しており,空胞も多く認められた。
本症例は歯冠形成の途中で極めて局所的な障害が歯に加わり,歯の形成がある期間障害されたと考えられる。その後,歯根の形成はある程度回復し,冠歯は萌出したが,ある時期より顎骨内の定位置に留まり,周囲組織の発育に伴い,一見歯肉内に埋もれていくように見えた。
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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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