抄録
本研究は,歯質中に存在して発育環境を的確に判定することのできる微量金属,特にCd,Zn,PbおよびCuを歯の組織構造と対応させて分析を行うことにより,乳歯歯質を解明しようとするものである.
測定方法は,熊坂が確立したppbレベルの測定に極めて有効な,塩酸-アセトン混合溶液によるカラム・クロマトグラフィーとフレームレス原子吸光法を用いた.
今回は,形成時期の異なる乳歯歯質を歯種別に分析することによって,歯の形成時期とその時期に取り込まれた微量金属との経時的変化に関する基本的情報を可及的に多く得るために,各歯種およびエナメル質-象牙質について微量金属の定量的な検索を行った結果,つぎのような結論を得た.
1.乳歯歯質中の微量金属平均含有量は,エナメル質・象牙質で,それぞれCd:0.97±0.42・0.60±0.23Zn:179.78±29.45・151.23±20.50Pb:18.01±5.58・29.59±8.60Cu:7.51±2.16・4.55±1.54 }μg/gであった.
2.エナメル質および象牙質中の含有量を比較すると,Cd,ZnおよびCu含有量はエナメル質で有意に高く,Pbは逆に,象牙質で有意に高かった.
3.歯種別にみてみると,エナメル質および象牙質中のCd,Zn,PbおよびCuの4金属すべての含有量が,切歯で高く,後方歯種に向かって少なくなる傾向が強かった.