抄録
小児期の咬合を健全にしておくことは,咀嚼機能や審美性の回復を計ることと同時に,より望ましい永久歯咬合を育成するのに重要なことである.従来,これを咬合誘導といわれていて,基礎的にも臨床的にも多数の研究が行われてきた.しかし,乳歯咬合から,どのように診断し治療を施こし,どのような永久歯咬合に育成してきたかといった報告は余り多くはない.しかも,乳歯咬合で,後継永久歯である上顎左側永久側切歯が先天的に欠如していることが判明している症例において,永久歯咬合まで追跡観察した論文は著者らが調べた範囲ではみられなかった.
本論文は,このような症例を長期的に観察することができ,治療経過途中で得られた連続口腔内写真,連続石膏模型,連続頭部X線規格写真などの資料を参考にし,治療経過の推移を述べるとともに,これらの資料を分折し,診断の妥当性についても検討した.その結果次のようなことが判明した.
1)咬合誘導について今後論じてゆくためには,同一患者を長期的に管理できた資料をもとに展開されなければならないと思う.
2)永久歯咬合まで育成された咬合が,その個体にとって正しい咬合であったのかどうかの客観的評価の必要性があるのではないかと思う.