抄録
先行乳歯に用いたビタペックスの根尖孔外溢出によって,上顎左側中切歯歯胚の位置異常ならびに嚢胞形成を生じた3歳9カ月女児の稀な症例に遭遇した。根管充填時,X線写真所見で,永久歯歯胚の中央部に3×11mmの範囲で濫出したビタペックスが認められた。根管充填6 カ月後では, 自覚症状はなかったが, 上顎左側乳中切歯唇側歯肉部の異常な骨膨隆と,X線写真所見で,濫出したビタペックスは消失し,嚢胞と思われる透過像が認められた。そこで処置として,先行乳歯の抜歯と同時に開窓療法を行ったところ,消失したと思われるビタペックスが後継永久歯歯嚢の舌側に多量に残留し, 歯胚を唇側に圧迫していた。術後2年では,後継永久歯歯胚はやや香側へ移動し,永久歯歯胚周囲の透過像も消失し,歯根の形成が開始されていた。以上の結果から,ビタペックスを乳歯根管充填剤として用いた場合,過剰根管充填は極力避けるべきと思われた。また,後継永久歯歯冠のみが形成された段階での位置異常や嚢胞形成に対し, 将来の歯根彎曲や転位, さらには歯胚の死滅を防ぐためにも開窓療法を積極的に行うべきと思われた。