抄録
1970年から1975年の間に生まれた日本人小児(64名)の乳歯歯冠近遠心幅径と乳歯列弓の大きさを計測し標準値を求め,さらにターミナルプレーンと乳歯列弓歯間空隙についても観察した。その結果,乳歯歯冠近遠心幅径では,上顎乳犬歯,上顎第一乳臼歯,下顎第二乳臼歯に性差を認め,女児より男児の方が大きかった。乳歯列弓では,多くの計測部位で性差を認め,女児より男児の方が大きかった。乳歯列弓の年齢差は,男児上顎の歯列弓幅が年齢とともに大きくなっていたが,その他では差は認められなかった。ターミナルプレーンは,左右両側垂直型が34.9%,左右両側近心型が22.2%,左右両側遠心型が14.3%であり,他は混合型であった。乳歯列弓歯間空隙は,上顎の空隙型が90.7%,下顎の空隙型が87.5%であった。
さらに,1950年代に生まれた小児の乳歯歯冠近遠心幅径と乳歯列弓の大きさを計測した小野らの結果と比較検討した。その結果,乳歯歯冠近遠心幅径は,ほとんど変化が認められなかったが,乳歯列弓の大きさは,我々のデータの方が小さく,特に上顎乳歯列の前方部で差が認められた。さらに,ターミナルプレーンは,垂直型が減少し,遠心型が増えていた。このことより,乳歯列期における顎の短小化は,単に永久歯列期の叢生の原因となるばかりでなく,下顎の遠心咬合といった上下顎骨の不調和の原因につながる可能性も考えられた。