小児歯科学雑誌
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小児虐待症(child abuse)の一症例
高野 文夫宇津木 双葉国本 洋志大森 郁朗
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1987 年 25 巻 3 号 p. 650-659

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抄録
家庭内で虐待を受け,永久歯の広範性齲蝕を生じた9歳9ヵ月の女児の歯科治療を行い,義歯を装着した。小児虐待症では,その背景の把握,診療室における対応,口腔衛生管理の指導など,通常とは異なった配慮が必要である。
歯科治療に当たっては,患児の萎縮した心を開かせ,家族の協力を引出し,失われた咀機能を早期に回復することに努めた。義歯の作製に際しては,発育途上の小児の適切な咬合高径を決定するため,同一歯齢群および同一暦年齢群の標準値を参考にして,頭部X線規格写真による角度分析を行うとともに,顔面各部の比率を求めた。
義歯装着後,患児は次第に閉鎖した態度を解き,術者の話しかけにも応ずるようになり,患児に虐待を加えていた母親の態度にも改善がみられた。小児虐待は,小児を取り巻く社会問題のひとつとして,小児科医や小児歯科医が遭遇する可能性のある問題である。わが国においては,まだ大きく問題にされることは少ないが,欧米においてみられる実態を考えると,わが国においても臨床的問題となる可能性が認められる。
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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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