抄録
本研究は脳性麻痺児(CP児)にみられる,咀嚼機能障害の特徴を把握し,客観的な分類評価を行うことを目的とした.
被検者は脳性麻痺児20名と対照群として咬合異常を認めない健常小児10名を用いた.咀嚼機能障害の評価方法としては空ロタッピング運動時と咀嚼運動時の咀嚼筋筋活動について検討した.空ロタッピング運動は自由および規定タッピング(76回/分)を行わせた.咀嚼運動はカマボコと市販のガムを使用し自由咀嚼と右側および左側の規定側咀嚼を行わせ,咀嚼リズムの観察を行った.
以上の方法による研究の結果,
1)自由および規定タッピングともにCP群は有意に遅いタッピングを行い,特に規定タッピング(76回/分)では,CP群がタッピング遂行能力で劣っていることが明らかとなった.またCP群はタッピング運動中で半数以上に1筋あるいは2筋に左右同名筋筋活動の非同期性を認め,またインターバルにおいても筋の緊張亢進が認められた.
2)咀嚼リズムの観察ではカマボコおよびガム咀嚼とも対照群に比べCP群は,持続時間の値が有意に長かった.
3)カマボコ咀嚼の嚥下までの時間および回数,また,ガム咀嚼の20ストロークまでの時間もCP群が大きな値を示し, ガム咀嚼, カマボコ咀嚼とも4 筋D,I,C平均被検者内変動もCP群が大きな値を示した.
4)咀嚼機能総合評価では対照群平均3.8点に対してCP群平均36.9点とCP群が著明に大きな点数を示し,さらにCP群の咀嚼機能障害度については,軽度(S1),中等度(S2),重度(S3)に分類することができた.
5)脳性麻痺の生理学的分類と咀嚼機能障害度との関係は,痙直型を示すCP児が軽度(S1)に,アテトーゼ型を示すCP児が中等度(S2)以上に分類される傾向が認められた.