抄録
リン酸4カルシウムまたはα-リン酸3 カルシウムの粉末とクエン酸またはリンゴ酸を練和して得られるセメントは,組成からみて生体親和性にすぐれていると考えられる.そのことを確認するため,セメント硬化体をラット皮下に埋め込み,全身および局所に与える影響を調べた.またこれら粉末は,中性領域の水溶液中でハイドロキシアパタイトに転換することから,生体内でのセメント硬化体の変化についても検討した.その結果,
1.実験期間中の体重変化およびセメント硬化体埋め込み12週目での血液学的検査,血清生化学的検査および肝・腎・脾の病理学的検査のいずれにおいても,特に異常所見は認められず,本セメントの全身への影響はないものと考えられた.
2.セメント硬化体埋め込み周囲組織の病理学的検査の結果,α-リン酸3カルシウムとリンゴ酸の組み合わせのセメントでは,セメント硬化体と接する組織に炎症細胞が認められ,局所刺激性が示唆されたが,他のセメントではハイドロキシアパタイトと同程度の組織親和性が示された.
3. 実験期間中にセメント硬化体の外形およびX線透過性に変化はなかった.また埋め込み12週目での硬化体のX線回折の結果から,いずれのセメントもハイドロキシアパタイトへ転換することが示され,α-リン酸3カルシウムセメントよりリン酸4カルシウムセメントの方がよりすみやかにハイドロキシアパタイトに転換することが示された.