乳歯の歯冠豊隆の程度,位置を計測し,歯肉との関連性を数量的に表わした.資料は3,4歳児の乳歯列模型を用いて,上下顎乳切歯227歯を計測した.
基準平面としては下顎の咬合平面を用い,模型上に印記した5つの計測部位(近心隅角部,近心部,中央,遠心部,遠心隅角部)の唇側歯冠および歯肉形態を形状測定機を用いて,20倍にトレースした.そして両者の関連性を食片流路の点から計測し,検討した.なお,歯冠ならびに歯肉最大豊隆部は,咬合平面に垂線を下ろし,これを基準軸として,この軸に交わる点を最突出点とした.
結果:歯冠・歯肉最大豊隆間距離,歯頸部・歯冠最大豊隆間距離,添窩量より,不潔域の大きさは,歯種別では,上顎乳中切歯が最も広かった.部位別では,近心部が最も狭く,遠心隅角部が最も広く,不潔域の広がりは上顎では歯冠側に,下顎では歯肉側により広く存在していた.歯冠最大豊隆接線角度は,乳中切歯の方が乳側切歯よりも大きい角度を示したが,その要因として上顎では歯冠軸の唇舌的傾斜度,下顎では唇面の豊隆の違いが考えられた.歯肉最大豊隆接線角度は歯種および部位間に大きな差はみられなかった.歯冠・歯肉最大豊隆結合線角度ならびに歯冠・歯肉最大豊隆接線角度差では,上顎両乳切歯は下顎両乳切歯に比べて大きく,とくに上顎乳中切歯で著しかった.さらに上顎乳中切歯において,遠心隅角部の歯冠および歯肉形態の関係ならびに,中央付近での歯冠から歯肉への移行部の大きな段差と尖状を呈している添窩の形態は,齲蝕や歯肉炎を引き起こす誘因の一つと考えられた.永久歯と乳歯を比較すると,とくに添窩量が乳歯は永久歯の3倍であった.歯冠形態と歯肉形態とは密接な関連性が認められ,添窩量は,歯冠・歯肉最大豊隆間距離,歯頸部・歯冠最大豊隆間距離歯冠・歯肉最大豊隆結合線角度,歯冠軸と相関性があり,とくに上下顎の近遠心隅角部で高い相関性が認められた.
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