抄録
プラーク中に含まれる物質が唾液中に拡散する程度について研究を行うことは,プラーク中の酸などのクリアランスを考えるうえで重要と思われる.1モルのKClを含む1%寒天を深さ1.5mm,直径3mmの窪みをもつアクリル製ホルダー(長さ13mm,幅7mm,厚さ2mm)に入れ,口腔内各部位において唾液にさらした後,KClの拡散率を求めた.その結果,10人(6歳)の症例の安静時唾液下におけるHalf-time(オリジナル寒天中のカリウム濃度が1/2になる時間)を,in vitroの実験(コントロール),すなわちビーカー内で急速に攪絆されている塩化ナトリウム溶液中でのカリウムの拡散率から得られたHalf-timeと比較すると,最もHalf-timeの長かった上顎前歯部唇側が約5.7倍,最も短かった下顎前歯部舌側が約1.4倍を示した.Half-timeは下顎よりは上顎が長く,また舌側よりは唇側が長かった.
一方,レモンドロップでの刺激唾液下においては,安静時の約8倍の唾液分泌量のもとで測定した結果,Half-timeは安静時の40~70%に短縮した.これらのことより,唾液クリアランス能は唾液分泌量の影響を強く受け,口腔内各部位によってかなり差のあることが示された.