小児歯科学雑誌
Online ISSN : 2186-5078
Print ISSN : 0583-1199
ISSN-L : 0583-1199
酸脱灰がエナメル質アパタイトの結晶性に与える影響
祖父江 英侍
著者情報
ジャーナル フリー

1989 年 27 巻 2 号 p. 341-354

詳細
抄録

アパタイトの有機酸による脱灰過程は, まず結晶格子の欠陥部にe t c h p i t が形成されることから始まり,腐蝕の進行は転位やすべり線に沿って起こることが明らかにされている。本研究では,酢酸による脱灰がエナメル質アパタイトの結晶性にどのような変化をもたらすかについて検討した。結晶性は回折線プロファイルのバリアンス解析法,フーリエ解析法を用い,結晶子の大きさと格子不整の両因子に分離して評価した。炭酸イオンたどを含まない合成ハイドロキシアパタイトについても同様な酸脱灰実験を行い比較検討した。また,脱灰によるアパタイトの形態変化を透過型電子顕微鏡により観察した。
その結果,脱灰による形態変化として柱面および基底面に楔状の欠損が認められた。また,結晶の中央部においてc軸方向に脱灰が進んだと思われるスリット状の小孔が観察された。アパタイトの結晶子のサイズは脱灰により小さくなったが,a軸方向に比較しc軸方向により大きな減少が認められた。アパタイトの結晶性は脱灰により向上し,これはmistakeの減少に起因することが認められた。また,mistakeの減少はa軸方向に比較しc軸方向に大きく認められた。
これらの知見より,エナメル質アパタイトは脱灰されることにより結晶子のサイズは小さくなるものの,主にc軸方向のmistakeの減少により,結晶性は向上することが明かとなった。

著者関連情報
© 一般社団法人 日本小児歯科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top