抄録
口腔内に分泌された唾液は,歯牙表而のプラークと口腔粘膜との間を1枚のフィルムのように広がり,移動し,やがて嚥下される.その間にプラーク中の様々な物質,例えば酸などの代謝産物は唾液中に拡散する.口腔内に一時停滞するこの唾液量は,ヒトが生理的に行う嚥下を一区切りとして,嚥下直前と直後で変化していることが考えられる.今回,我々はこの唾液量について検討を行った.
安静時,嚥下直後の唾液量Xは,被験者の安静時唾液中のカリウム濃度(Ci)を計測し,通常通り唾液を嚥下した直後,3mlの蒸留水で5秒間口をゆすぎビーカーに吐き出させ,その量をVとし,そのカリウム濃度をCfとし,X×Ci=(V+X)×Cfより求めた.嚥下直前の口腔内に貯留する唾液量Yは,被験者の安静時唾液分泌量をその被験者の生理的な嚥下回数で除し,1回の嚥下唾液量Zを求め,Y=X+Zより求めた.実験は5歳児60名(男児30名,女児30名)を対象とした.
その結果,安静時唾液量の平均値は0.22±0.14ml/minで,口腔内に停滞している唾液量はそれより多く,嚥下直前で0.50±0.15ml,嚥下直後で0.37±0.11mlであった.また,平均嚥下回数は1.6±0.6回/分で,1回の嚥下で嚥下される平均の唾液量は0.13±0.06mlであった.
これらの値をLagerlofらの求めた成人の値と比較すると,各々およそ50%の値を示しており,Dawesのコンピューターシュミレーションによれば,わずかに小児の方が唾液クリアランス能が優れていることが示唆された.