1992 年 30 巻 1 号 p. 150-157
本研究はヒト乳児を用い,哺乳運動がどの様に行われているか,特に各咀嚼筋群の吸啜行動への参加と協調性について検討することを目的に行った。
実験には健康状態の良好な生後4カ月と5カ月の無歯期の乳児2名を用い,哺乳時の咀嚼筋活動を片側の側頭筋前腹,咬筋,口輪筋および舌骨上筋群を用い観察した。また本教室で特別に作製した哺乳瓶を使用し,吸啜時の吸引圧(吸啜波)も同時記録すると共にビデオカメラにて哺乳時における乳児の行動についても観察した。結果は以下のとおりであった。
1)吸啜波は圧出相,吸引相および嚥下相に分けることができ,嚥下相は陽圧と陰圧の単純な吸啜サイクルを2~4波形繰り返した後出現していた。
2)圧出相ではまず口輪筋が働き次いで咬筋,側頭筋が働き,吸引相では口輪筋,舌骨上筋群が活動していた。嚥下には主に口輪筋と舌骨上筋群が活動し,咬筋も協調していた。
3)吸啜中の顎の運動を観察すると圧出相では顎は前上方へ移動し,吸引相では後下方へ移動するパターンを示していた。