抄録
左右側顎関節雑音, 肩凝りを主訴に来院した1 3 歳8 カ月男性に対して, 多角的に病態を把握する目的で各種検査を行った。既往歴として全身的には特記すべき事項はなかったが,11歳頃より肩凝りを覚え,10歳頃睡眠中にブラキシズムを行っていた既往があった。現症として開口時中期の左右側顎関節雑音および肩凝りを認めた。初診時の所見は次のとおりであった。
1) 口腔内所見では, 2 栓状歯, 54未萌出に伴う76近心傾斜が認められた。
2) パノラマX 線写真見では, 52|5/5先天性欠損, 5水平埋状が認められた。
3) T スキャン所見では, 54|45/54|45セントリックストップの欠如および咬嵌合位の後方偏位が認められ,前方,側方滑走運動時において76|67/76|67の咬頭干渉が認められた。
4)顎関節断層写真所見では,咬頭嵌合位で左右側下顎頭は後方偏位しており,MRI所見では左右側とも復位可能な関節円板前方転位と診断された。
5)筋電図所見では,各筋は協調性に欠け咀嚼リズムは不安定であった。
6) 矢田部ギルフォード性格検査では, 患者はC'型( C 型すなわち安定適応消極型の準型),母親はD型(すなわち安定積極型)と判定され,状態・特性不安インベントリーでは,患者,母親とも状態不安,特性不安ともに標準的であった。処置として,スタビライゼイションスプリントおよび接着性レジンを用いた4点接触にて,咬合の安定化,筋および顎関節の安静化を図った。約3カ月経過後,肩凝りには著変は認められなかったが顎関節雑音は著明に減少し,現在経過観察中である。思春期は顎口腔系が急激に成長発達し,情緒的にも不安定な時期であるため,臨床症状のみでなく,Tスキャン,MRI,筋電図,心理テストなどの各種診査は診断,治療,治癒の判定に非常に有用であることが示唆された。