抄録
リン酸四カルシウム(4CP)粉末をもちいたセメントを萌出途上の幼若永久歯の小窩裂溝填塞剤として応用するために,エナメル質への接着性を有するセメント硬化液を試作した.さらにこの4CPセメント自体が口腔内でどのように変化するかを知ることを目的として,硬化体を蒸留水ならびに再石灰化溶液中に浸漬し,経時的変化をX線結晶学的に検討した.数平均分子量の異なる2種類のポリアクリル酸(PAA-L,H)の配合量を変化させて,理工学的性質を測定した結果,数平均分子量5000のPAA-L25%,数平均分子量12000のPAA-H5%,クエン酸15%,酒石酸5%からなる硬化液が理工学的に最もすぐれていると判断された.この硬化液と4CP粉末を粉液比1.1で練和したとき,硬化時間4分,圧縮強さ634kgf/cm2,接着強さ7.2kgf/cm2を示した.フッ化物として,フッ化カルシウムは30%まで,フッ化ストロンチウムは2%まで配合しても使用可能であった.X線回折の結果,4CPセメント硬化体中の4CPは経時的にハイドロキシアパタイト(HAp)に転換した.この反応は,再石灰化溶液中でよりすみやかに生じ,浸漬28日後には硬化体中の4CPはすべてHApに転換していた.フッ化物の配合は,この転換を促進した.