抄録
患者は,11歳10ヵ月女児で下顎左側乳犬歯の晩期残存ならびに下顎左側犬歯部の精査を主訴に当科を受診した.X線所見では下顎左側乳犬歯根尖相当部に下顎左側犬歯の歯冠を含む,境界明瞭な拇指頭大,2房性の嚢胞様X線透過像が認められた.下顎左側乳犬歯の抜去,同部よりの開窓術を施行し,切除した嚢胞壁の病理組織学的検索を行った.病理組織学的所見は,菲薄な重層扁平上皮に裏装された嚢胞壁で,部分的に上皮の肥厚と,小石灰化物および少数の幻影細胞を認め,また線維性の嚢胞壁内には散在性に歯原性上皮の小塊が観察された.本疾患は,腫瘍的性格を有すること,再発などの報告もあり,長期にわたり慎重に経過観察を行うことが重要である.