抄録
母子に出現した部分的無歯症の2症例を経験し次のような結論を得た.症例1として男子7歳11ヵ月は〓の部位に,症例2としてはその子供の母親32歳11ヵ月には〓の先天性歯牙欠損症が見られた.症例1の萌出歯牙においては,歯冠近遠心径は上顎乳犬歯,下顎乳犬歯,下顎第2乳臼歯が異常値を示したほかは,正常範囲内であった.症例1においては,上顎骨が劣成長のために今後下顎骨の成長に伴ってますます下顎が前方位になることが考えられ,チンキャップの装着および〓の正中離開の改善を開始し,予後の観察を行う予定である.また,症例2の場合歯槽堤は萎縮し発育不良であった.現在部分床義歯を装着している.
今回の症例では,祖母,母親その長男と3代にわたり系統的に,男女間の性差はなく部分的無歯症が起こっている.この結果より,成因は常染色体優性遺伝と考えられる.さらに,症例1では,父親にも先天性欠損が認められた.このことから,父親からの遺伝の関与が症状促進の一因子になったことが考えられる.しかし父親の方は系統的に調べることが不可能であり,確認できなかった.また症例2の場合は出産時,健康状態が不良であったことが確認されており,その症状をさらに促進する因子となったと思われた.