抄録
従来,下顎乳中切歯ならびに乳側切歯の左右側の鑑別は,切端隅角徴,彎曲徴,歯根形態や歯根の方向などにより可能であるとされている.しかし切端が増齢とともに咬耗し,歯根が生理的に吸収すると,これらの判断基準の多くは消失し,歯冠のみとなった乳切歯では鑑別が益々困難となる.そこで,正常咬合でほとんど咬耗のみられない3歳児の25個の石膏模型を用いて,歯冠軸に直角に交わる横断面を切端より0.5mm,1.0mm,1.5mm,2.0mm間隔で作製し,その面積を近心部と遠心部で比較した.その結果,乳中切歯の80%の症例で,乳側切歯の全ての症例で,近心部の面積の方が遠心部より大きかった.従って,本方法は,下顎乳中切歯ならびに乳側切歯歯冠の左右側鑑別に極めて有効であると思われる.