抄録
乳歯の生理的歯根吸収過程において免疫反応が関与しているかどうかについて検索するため,幼犬を対象として乳歯の生理的歯根吸収開始前から脱落までの象牙質に対する血清抗体価の変化を測定した。
抗原は被検対象の幼犬から予め抜去して得られた乳歯歯根部象牙質から抽出した。被検血清の採取は,それぞれの幼犬において乳歯の生理的歯根吸収が生じる以前より開始し,その後1週毎に行った。乳歯の歯根吸収および脱落の過程は,実験開始時よりエックス線診査ならびに口腔内診査によって観察,確認した。被検血清中の抗体価の定量的測定はELISA法により行った。
象牙質に対する血清抗体価は,生理的歯根吸収が開始し吸収が進行するにしたがい低下する傾向を示し,全ての乳歯が脱落した後は歯根吸収開始前の値にまで回復した。すなわち,乳歯の生理的歯根吸収過程において特異的な免疫学的変化が認められた。
本実験の結果から,イヌの生体内に象牙質に対する自己抗体が存在すること,そして乳歯の生理的歯根吸収に対し免疫学的機構がある種の役割を演じている可能性のあることが示唆された。