抄録
歯胚に対する放射線照射がその後の歯の発生と発育に与える影響,特に照射線量と照射時期の違いによる影響を調べる目的で本研究を行った。妊娠マウスの腹部に6MVの放射線照射を行い,得られた胎仔の歯胚について組織学的観察とコンピュータ・グラフィックスによる三次元的解析を試み,以下の結果を得た。
1)胎齢9日および10日に3,4,5Gy,11日に5Gy照射した群では生存胎仔は得られなかった。
2)同じ胎齢で照射を受けた場合,胎仔の体重は照射線量の増加にともない減少した。
3)発生早期(胎齢9~13日)に照射を受けた歯胚は,コンピュータ・グラフィックスにより発育の遅れと倭小化が示された。
4)発生早期歯胚への照射はエナメル器体積と象牙質表面積の増加を阻害し,その後の形成量は照射線量にともない減少した。
5)エナメル器体積は,4,5Gy照射群では照射時胎齢が遅いほど減少傾向が少なかった。
6)エナメル器体積あるいは象牙質表面積と胎仔の体重の比率を算出したところ,エナメル器体積よりも象牙質表面積の減少傾向の方が大であった。
7)胎齢12日に5Gy照射した歯胚は,照射直後は組織学的な変化を示さなかったが,胎齢14日ではほぼ一日分の発育の遅れを示した。