抄録
唾液クリアランスの部位特異性については,幾つかの報告がみられるが,それらは全て平滑面を対象に行われており,臼歯咬合面については,ほとんど研究が行われていない。
本研究では,1mol/l塩化カリウムを含む寒天を上顎前歯部唇側面,下顎前歯部舌側面,上下顎第三大臼歯咬合面相当部に10分間装着し,口腔内にカリウムが流出した後の寒天中のカリウム残量を計測することにより,唾液のクリアランスについて比較検討を行った。
その結果,カリウム残量は,上顎前歯部唇側面が最も多く,下顎前歯部舌側面が最も少ない値を示した。そして,上下顎第三大臼歯咬合面相当部はその中間の値を示し,下顎のほうが上顎より少なかった。すなわち,後方臼歯部咬合面の唾液クリアランスは,下顎前歯部舌側面よりは悪いものの,上顎前歯部唇側面より良いこと,また,臼歯部では,上顎より下顎のほうが良いことが示唆された。