抄録
歯科治療を希望する重度のアレルギー体質である6歳9か月の男児に対して, 使用する可能性のある歯科材料の諸検査を行い,陽性反応を示すものを排除することにより,アレルギー性反応の増悪化などの合併症をみることなく処置を完了することができたので, その詳細を報告する.
患児は,小児科にて気管支喘息, アトピー性皮膚炎,ダニ・カビ・食物アレルギーと診断されている.他院にて齲蝕治療のため応急的にグラスアイオノマー仮封と思われる処置を受けたところ,その直後に行われた小児科の血液検査(特異IgE抗体検査: 半年に一度定期的に行われている) にて牛乳の抗体値が急上昇したため,グラスアイオノマーセメントを含む歯科材料の過敏症が疑われ,小児科医のすすめにより精査と齲蝕治療を希望し,当科を受診した.
齲蝕治療に先立ち,使用する可能性のあった歯科材料15種のパッチテストおよび局所麻酔薬2種のスクラッチテストを行った.その結果, グラスアイオノマーセメントは陰性,エッチング材については弱陽性反応,セルフエッチングプライマーについては, 48時間後より1週間後まで,紅斑,浮腫, 小水泡を伴う強陽性反応を示した.また, 局所麻酔薬2種(塩酸リドカインと塩酸プロピトカイン) については陰性であった.さらに,治療において乳歯冠の使用が必要となったため銀合金, Ni-Cr,Tiのパッチテストを追加して行ったところ, どの金属に対しても陰性であった.
以上の結果をふまえ,セルフエッチングプライマーについては感作が疑われたため,歯冠修復には銀合金インレー修復および既製乳歯冠修復を中心とした治療を行った.その結果アレルギー性反応の増悪化をみることなく治療を完了し, 良好な予後が得られている.