小児歯科学雑誌
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Down症候群乳歯エナメル質の新産線前後におけるF,Mg濃度
中野 崇河合 利方東 公彦長縄 友一福田 理土屋 友幸坪井 信二中垣 晴男
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2001 年 39 巻 3 号 p. 561-567

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抄録

Down syndromeの齲蝕罹患性は永久歯,乳歯のいずれも健常児,他の精神発達遅滞児に比して低いことが報告されているが,その要因については未だ不明な点が多い.これまで著者らはその要因として歯の表層の生化学的組成に着目して両者を比較検討し,Down症児の歯は健常者に比して低石灰化傾向にあることを認め,生化学的な検討からはDown症児の低齲蝕罹患性を肯定する結果は得られなかったことを報告した.そこで本研究ではDown症児のエナメル質の低石灰化傾向が,石灰化過程での特異性であるのかを評価することを目的に愛知学院大学歯学部附属病院小児歯科を受診したDown症児6.2歳から8.7歳5名と健常児5.8歳から10.1歳5名より得られた下顎乳中切歯を対象として,より内層であるエナメル質の新産線前後におけるF,Mg濃度を計測し,以下の結論を得た.
1.乳歯エナメル質中のF濃度分布についてはDown症児,健常児ともにエナメル質表層から内層に向かうFの濃度勾配が存在することが確認された.
2.Down症児と健常児のF濃度の比較ではDown症児が全層において低い値を示し,統計的に有意な差が認められた.
3.Mg濃度分布についてはDown症児,健常児ともにエナメル質中での大きな濃度変化はなく,一定であった.
4.Down症児と健常児のMg濃度の比較ではDown症児は健常児に比して相対的に高い濃度を示していたが,統計的に有意な差は認められなかった.
以上の研究結果より,エナメル質内層においてもDown症児の歯の低石灰化傾向が確認された.また,Down症児のエナメル質への石灰化の影響は胎生期から出産を通して,出生後まで常に続いることが示唆された.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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