抄録
小児急性白血病の治療に用いる抗腫瘍剤は治療効果の反面,副作用も強く,小児期の成長発育に障害を起こす恐れがある.本研究は,抗腫瘍剤の腹腔内注射が全身ならびに顔面頭蓋に及ぼす影響を明らかにするため,臨床で多用される硫酸ビンクリスチン(以下VCRと略す)とシクロフォスファミド(以下CPAと略す)を成長期のラットに腹腔内注射し,上腕骨と顔面頭蓋に生じる変化について形態学的ならびに病理組織学的に比較観察し,以下の所見を得た.
1.体重は,VCR群では対照群と同様に増加したが,CPA群では増加量は少なかった.
2.顔面頭蓋の成長は,VCR群では対照群と同様であった.CPA群では生後22日目で前顔面頭蓋幅に成長の遅れが生じ,生後54日目には全計測部位で小さくなっていた.
3.生後54日目における上腕骨の骨長は,VCR群では対照群と差はなかったが,CPA群では短かくなっていた.VCR群では対照群とくらべ骨形成に差はなかった.一方CPA群では生後22日目で正常なモデリングによる骨形成は阻害されていたが,生後54日目には回復していた.以上より,CPAはVCRに比べ早期に骨のモデリングを阻害し,ラットの全身ならびに顔面頭蓋の成長発育に遅れが生じることが確認された.