抄録
本研究は,正常咬合の小児,および前歯部反対咬合や過蓋咬合といった咬合異常をもつ小児の,顎運動中の咀嚼筋の末梢性制御機構を明らかにする目的で行った.前歯部正常被蓋の成人被験者7名を対象として,正常咬合と反対咬合(Overjet-1mm)の2種類の咬合状態でタッピングできるバイトブロックを,前歯部と大臼歯部に分割可能で,垂直的咬合関係ができるだけ同じになるよう作製した.正常咬合ブロックタッピング時の咬筋と側頭筋の筋活動を基準に,反対咬合ブロックタッピング時の筋活動を筋電図的に解析した.
咬筋の筋活動は,正常咬合タッピング時と反対咬合タッピング時との間に大きな違いは認められなかった.側頭筋では,前歯ブロックタッピング時の活動減弱,ならびに大臼歯ブロックタッピング時の活動増加という反応パターンが,反対咬合ブロックタッピング時に増強した形で認められた.一方,反対咬合時の側頭筋活動量は,どのブロックタッピングにおいても正常咬合時よりも著しく減少した.また,反対咬合タッピング時の側頭筋の活動量には,被験者間でのバラツキが大きく認められた.本実験結果は,下顎後退筋である側頭筋が,反対咬合時には過度に伸展されていることに起因していると考えられた.このことから,筋紡錘の感覚情報は咀嚼運動中のSlow closing phaseにおける閉口筋の反応様式を変化させている可能性が示唆された.