抄録
言語獲得期の小児の泣き声に含まれる感情的要素を検索することを目的として,歯科治療時の泣き声をサウンドスペクトログラムを用いて分析した.波形的特徴と泣き声を聞いた被験者の聴覚印象評価とを対比し,その関連性について検討した.
2歳児と3歳児の泣き声を60秒間観察したところ,年齢によりサウンドスペクトログラム上にノイズの分布状態の相違を認めた.そこで,泣き声波形をこのノイズの差によりN型,C型の二つに分類した.また,この泣き声の強さを6名の歯学部学生に評価させ,N型・C型それぞれに,サウンドスペクトログラム上類似した強い泣き声と弱い泣き声を選び出した.
次に13名の小児歯科医師を対象として,これらの泣き声の聴覚印象の評価を行った.その結果,N型はC型と比較して,怒りや不快を強く感じる「激しい泣き声」であることが示唆された.さらに,N型・C型それぞれについて振幅,周波数を変化させた聞き取り実験では,N型が泣き声を激しいと感じさせる要因は,音の大きさや高さとは異なる成分であることが示された.