抄録
本学附属病院小児歯科で乳歯列期から永久歯列期まで管理してきた小児のうち,下顎乳前歯に癒合または先天欠如を有する30例を対象として,永久歯への交換の際に生じる問題点および永久歯咬合での問題点について調査し,以下の知見を得た.
1.下顎乳前歯に癒合または先天欠如がみられたが永久歯数に異常を認めない症例では,永久4切歯が乳犬歯間に問題なく排列した症例もあったが,その頻度は少なかった(10例中2例).このような症例では,側切歯萌出に伴い,乳犬歯が脱落したり,側切歯が舌側に萌出してきて,乳犬歯を抜去した症例が多かったが,側方歯交換終了までリンガルアーチを装着することで,比較的良好な永久歯排列が得られた.
2.下顎乳前歯に癒合や先天欠如がみられ,永久歯でも癒合または先天欠如が認められた症例では,切歯交換期に問題となる症例は少なかった.この症例の永久歯咬合では,オーバーバイト,オーバージェットともに大きい症例が多かった.
3.永久歯でも癒合または先天欠如が認められた症例では,空隙のある歯列が多かったが,空隙は犬歯より後方部に多く認められた.審美的に障害となるような空隙が前歯部に生じた症例は,20例中,下顎両側乳側切歯2歯欠如の1例のみであった.