抄録
今回著者らは幼児期の歯科治療と,その後の継続的な定期診査が歯科恐怖の発症にどのような影響を与えているかを検討する目的で,幼児期に新潟大学歯学部附属病院小児歯科診療室で歯科治療を行った青年に対し,国際的に広く用いられているアンケートDental Fear Survey(DFS)を行った.継続的に歯科的管理を行っている継続群と行っていない非継続群の2群についてDFSの結果を比較検討し以下の結論を得た.
1.非継続群の20設問の合計点数(DFS値)は45.41であり,過去に報告した日本人一般青年の45.15と同程度となった.これに対し,継続群のDFS値は34.60で,非継続群および一般青年に比べ有意に低い値を示した(P<0.01).
2.継続群,非継続群ともに4歳以下ではほとんどの場合に身体抑制下で診査や治療が行われていた.両群間で実際の歯科治療内容に有意な差はみられず,DFS値と強い相関を示す治療内容はみられなかった.
本調査より,幼児期に同様な歯科治療経験を持つ者でも,その後の対応により,青年期の歯科恐怖心に相違がみられることが示された.この結果は,幼児期の歯科治療から青年期にかけての心理的ケアの重要性を意味していると同時に,幼児に対して心理的負担をかける機会の多い小児歯科では,長期に亘って適切な対応を行う必要があることを示唆していた.