抄録
破骨細胞は骨吸収を担う多核細胞であり,単球・マクロファージ系細胞の前駆細胞から分化することが知られている。今回著者らは,炎症性サイトカインの一つであるマクロファージ遊走阻止因子(MIF)が,破骨細胞分化過程にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った。マウス骨芽細胞様細胞(E1細胞)とマウス骨髄細胞との共存培養によって破骨細胞を誘導し,TRAP陽性細胞の出現数・破骨細胞分化因子(RANKL)の発現量・破骨細胞抑制因子(OPG)の産生量・硬組織吸収能についてMIFの影響を調べた。その結果,TRAP陽性多核細胞の出現数は,MIF濃度に依存して減少することが判明した。一方,E1細胞におけるRANKLの発現およびOPGの産生に,MIFの影響は確認されなかった。TRAP陽性細胞1個中に含まれる核数の分布を調べたところ,MIF作用群では対照群と比較し,多核化が抑制されていることが明らかになった。また,象牙質切片上に形成された吸収窩を観察したところ,MIF作用群では形成された吸収窩の大きさが明らかに小さかった。
以上の結果より,MIFは分化・成熟過程にある破骨細胞の融合過程を阻害することで,成熟した破骨細胞の出現を抑制しているものと考えられた。