小児歯科学雑誌
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乳歯再植の術後経過の1例
白瀬 敏臣黒田 暁洋河上 智美小方 清和酒寄 浩章内川 喜盛
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2004 年 42 巻 4 号 p. 561-568

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抄録

外傷よる上顎右側乳中切歯の脱離を主訴に来院した3歳1か月の女児に,保護者の承諾のもと再植を行い,後継永久歯の萌出に至るまで術後経過を観察した。
患児は牛乳中に脱離歯を保存し,受傷より1時間後に来院した。脱離歯を再植し,生理的固定を行い,9日後に水酸化カルシルムを根管填塞した。再植2か月後では炎症性吸収は認められなかった。再植4か月後では生理的動揺は消失し,骨性癒着が疑われた。再植2年4か月後では歯根吸収は緩徐に進行していった。この間の乳歯列の推移では,再植歯に隣接する歯間空隙量が他部位に比べ少なくなっていた。再植歯は自然脱落し,後継永久歯は正常に萌出した。後継永久歯の歯冠部唇側切端寄り1/3付近に白斑を認めたが,表面は平滑で実質欠損は認められなかった。
本例は,脱離歯の口腔外保存時間が短かったこと,受傷が1歯に限局していたこと,歯根完成歯で吸収に耐えうるだけの歯根部象牙質が形成されていたこと,正常咬合で口腔習癖がなかったこと,受傷時には後継永久歯胚の形成が進んでいたことなどの条件により比較的良好な予後が得られたものと考えられる。乳歯の再植は原則的に禁忌とされているが,本例は長期にわたり乳歯を保存し,後継永久歯への障害も少なかった。乳歯の再植は,後継永久歯への影響に加え,再植歯の萌出レベルや歯間空隙量など,歯列形成に影響を及ぼす可能性があることを認識し慎重に選択する必要がある。

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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