コルチゾン投与によるマウス唇顎口蓋裂発症の遺伝形式を検討するため,唇顎口蓋裂高感受性であるA/WySn(以下Aとする)系統マウスと唇顎口蓋裂低感受性であるC3H/He(以下C3Hとする)系統マウスを用いて遺伝学的交配実験を行い,妊娠11日目から14日目までの4日間に妊娠マウスにコルチゾンを投与した。胎生18日に,A×A,C3H×C3H,交雑F
1としてA×C3H,C3H×A,およびN2バッククロスマウスとしてA×F
1(A×C3H),A×F
1(C3H×A),F
1(A×C3H)×AとF
1(C3H×A)×Aの8群のマウス胎仔において唇顎口蓋裂の発症率を観察したところ以下の結論を得た。
1.コルチゾン投与による唇顎口蓋裂の発症率は,親系のA系マウスが11.3%であり,N2バッククロスマウスが3.6%であった。親系のC3H系マウスおよび交雑F1マウスにおいて唇顎口蓋裂の発症は認められなかった。
2.N
2バッククロスマウスにおいて,唇顎口蓋裂の発症に両側性と片側性,また左右側性の間に有意差は認められなかった。
3.コルチゾン投与によるマウス唇顎口蓋裂の発症には性差がなく,常染色体劣性遺伝性であることが示唆された。
4.コルチゾン投与によるマウス唇顎口蓋裂の発症は複数遺伝子が関与し,そのうち主たる原因遺伝子が存在することが示唆された。
5.コルチゾン投与によるマウス唇顎口蓋裂の発症に遺伝的な母体効果はみられなかった。
以上のことから,分子遺伝学的手法の一つである連鎖解析を用い,唇顎口蓋裂を有するN2マウスにおいて全常染色体上のインターバルマッピングにより,マウス唇顎口蓋裂の原因遺伝子が存在する候補染色体を特定すること,さらに候補遺伝子を特定することが可能となった。
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