抄録
小児における前歯部開咬は口腔習癖に起因するものが多いが,舌の腫瘤や肥大も開咬の一因として挙げられる.今回,前歯部開咬および流誕を主訴として来院した患児に舌血管腫が認められた症例を経験したので報告する.
患児は5歳4か月の男児で,舌,下唇,および左側頬部に腫脹が認められた.MRI検査および病理組織学検査により患児の舌の左半側を越える範囲,そして咬筋や内側翼突筋周囲および耳下腺部に血管腫が多発性に存在していることが確認された.咬合状態はover bite-6.50mm,over jet 120mmと著しい開咬を示していた.歯列弓長径および幅径は上下顎ともに基準値よりも大きく,歯列の全ての部位に歯間空隙が存在し,巨大な舌による影響が疑われた.
前歯部開咬および流涎を改善させる目的で,本学口腔外科と連携しステロイド療法を5歳7か月時より開始した.5歳9か月時には全身麻酔下にて電気メスを用いて舌および下唇の血管腫の外科的減量術を行った.小児歯科においてプラークコントロールと口腔保健の増進を含めた口腔管理を行った.血管腫の縮小に伴い,前歯部開咬の改善傾向が認められた.6歳6か月時には,over bite -2.60mm,over jet 2.40mmであり,over bite は3.90mmの増加,over jet は1.20mmの増加が認められた.
本症例は,口腔外科とのチームアプローチにより,ステロイド療法や血管腫の外科的減量術を施行し,血管腫の縮小がみられ,それに伴い前歯部開咬が改善された.