抄録
鎖骨頭蓋骨異形成症は常染色体優性遺伝性の疾患であり,鎖骨低形成,頭蓋骨縫合骨化遅延,歯の萌出遅延などを特徴とする症候群である.本症候群の遺伝子座は染色体6p21に位置し,この領域の転写因子の一つであるRUNX2の遺伝子変異が本症の原因であるとされている.本研究では,鎖骨頭蓋骨異形成症の1男児について,RUNX2遺伝子の変異解析を行ったところ以下2の知見を得た.
1.患児に両側の鎖骨低形成,頭蓋骨縫合骨化遅延および泉門閉鎖遅延,乳歯脱落遅延および永久歯萌出遅延が認められた.本人および保護者に対する医療面接の結果,患児の症状は非家族性であると思われた.
2.本症例のRUNX2のエキソン領域のDNAをPCRにて増幅し,シークエンシング法により塩基配列を決定した.その結果,患児のエキソン3のruntドメイン内にミスセンス変異を認めた.673塩基目のシトシンがチミンに変異することで,225番目のアミノ酸であるアルギニンがトリプトファンに変異していると予想された.この結果として,RUNX2タンパクの骨芽細胞分化に関わる正常な働きが損なわれ,本症候群が発症したものと考えられた.
3.過去に報告された本症例と同一の変異を有する症例と,本症例の臨床症状を比較したところ,その症状は異なっており,遺伝子型と表現型は必ずしも一致しないことが示唆された.